大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 昭和35年(ラ)105号 決定 1960年8月24日

抗告人 田村久夫

相手方 国

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告代理人は、「原決定を取り消す。相手方が抗告人に対し名古屋地方裁判所昭和二十九年(ワ)第一四八一号建物収去土地明渡請求事件の判決の執行力ある正本に基いて別紙目録記載の建物の三坪の部屋およびその敷地につき強制執行をすることは許さない。手続費用は相手方の負担とする」との決定を求め、その理由とし別紙抗告理由書記載のとおり申し立てた。

よつて案ずるに、本件記録に編綴されている判決書写(記録十丁以下)、相手方が原審口頭弁論において提出した乙第四ないし七号証の各写ならびに右口頭弁論において尋問された証人寺尾元実の尋問調書によれば、

一、抗告人主張の本件債務名義たる名古屋地方裁判所昭和二十九年(ワ)第一四八一号建物収去土地明渡請求事件の判決には、原告として相手方が表示され、被告として、「愛知県西春日井郡山田村大字上小田井二百二十八番地田村商店こと田村久吉」および「同所同番地田村久夫」と記載され、かつその被告両名の訴訟代理人として、弁護士近藤亮太および同寺尾元実両名の氏名が書かれており、主文において、被告等は原告に対し別紙目録記載の建物の三坪の部屋および同建物のうちその西側隣室なる一坪五合の部屋より退去しその敷地を明け渡すべき旨記載されていること

一、右訴訟は、昭和二十九年七月上旬ころ右地方裁判所に提起され、控訴および上告各審を経由して、昭和三十三、四年ころ終了し、第一審における前記判決が確定し、相手方は、その判決の執行力ある正本にもとづき強制執行をしたこと、

一、右訴訟については、第一審において右弁護士両名が寂上の被告久吉および久夫両名を作成名義人とする昭和二十九年八月三十一日付委任状を裁判所に提出し右被告両名の訴訟代理人であると称して訴訟を追行し、控訴および上告各審においても同様であつたこと

が明かである。

そして相手方が原審口頭弁論において提出した乙第一号証の一、二(住民票抄本)、同じく乙第二、三号証の各一、二および乙第十ないし十三号証の各写ならびに右口頭弁論において尋問された証人田村園子、同森孝雄、同塚本秀三郎および抗告人本人の各尋問調書を総合すれば、

一、抗告人(昭和三年生)は、前記上小田井二百二十八番地に居住する田村久吉の三男であつて、久吉方に同居していたが、昭和二十四、五年ころより久吉と別居して名古屋市中区桑名町四丁目二番地等に居住し、そのころ園子と結婚して長男隆昌を生み、昭和二十七年十二月ころ妻子と共に同市東区萱屋町一丁目二十番地に転居して現在に至つていること

一、しかしながら、住民票等の上においては、抗告人は昭和三十三年一月十日まで妻子と共に前記上小田井二百二十八番地なる右久吉方に同居し同日久吉と別居し妻子を伴つて右萱屋町一丁目二十番地に転居した旨記載してあり、なお、園子との婚姻届は、上記山田村長宛に提出しており、また、抗告人等は、同人等に対する米の配給を同年一月分までは前記久吉方において受領していたこと

一、右久吉と抗告人とは、遅くとも昭和二十五、六年ころより上記建物の一部分を占有使用して電話売買業を営んで来たが(ただし、その両名が一坪五合の部屋と三坪の部屋とを共同して占有使用し共同営業をして来たのか、あるいは久吉が一坪五合の部屋をまた抗告人が三坪の部屋を占有使用し各自単独で営業をして来たのか、という問題等については、ここでは判断しない。)昭和二十九年七月上旬ころ前記のように右訴訟が堤起され、同訴訟の被告田村久夫に送達すべき訴状および第一回口頭弁論期日呼出状が同年七月二十一日前記上小田井二百二十八番地に送達されたこと

一、愛知県西春日井郡山田村大字上小田井二百二十八番地は、行政区画および土地の名称の変更により、昭和三十年十月一日から愛知県名古屋市西区山田町大字上小田井二百二十八番地となつたこと

を肯認するに足りる。

以上認定のすべての事実を総合して考察すれば、前記判決に被告として表示されている田村久夫は抗告人自身をさすものであること明白であつて、疑問の余地がない。

次に被告田村久夫すなわち抗告人に送達すべき訴状等が上小田井二百二十八番地に送達されたことは上記のとおりである。そして仮に父久吉が抗告人に対して送達された右訴状等を受領したうえ上記委任状に抗告人の氏名をも冒書し抗告人には無断で抗告人の訴訟代理を久吉自身の訴訟代理と共に一括して前記弁護士両名に委任しその弁護士両名においてもつぱら訴訟を追行したような事由により抗告人が終始右訴訟の存在を知らないで過したものとしても、民事訴訟法第四百二十条第一項第三号にもとづく再審の訴においてならば格別、本件のような執行方法異議の手続において確定判決の効力を争うことは許されない。また、確定判決の内容に欠点があると仮定しても、同様執行方法異議の理由とすることができないこともちろんである。

なお、記録を精査しても、原決定に違法があるところを発見することはできない。

叙上のとおりであつて、本件抗告は理由がないかち、これを棄却すべく、抗告費用の負担につき民事訴訟法第九十五条第八十九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 石谷三郎 山口正夫 吉田彰)

目録<省略>

抗告理由書

抗告人は、名古屋市東区萱屋町一丁目二十番地に昭和二十七年十二月以降今日に至るまで居住しているが、本件強制執行におい)て執行吏の所持する債務名義には、被告田村久夫の住所として右とは全然別異の場所が記載されている。同被告は、抗告人とは同名異人である。しかのみならず、被告人は、未だかつて相手方と右債務名義に記載してあるような訴訟をしたことがなく、そのような訴訟に関する書類を一度も裁判所より受領したことがない。右の次第であるから、右債務名義は抗告人に対しては何等の効力も有しない。右のような債務名義にもとづいて本件建物部分よりの退去およびその敷地の明渡の強制執行をすることは執行の方法を誤つたものである。本件債務名義には実質的にも形式的にも欠点がある。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例